酸蝕症の原因と段階別にみる治療法
皆さんは酸蝕症という言葉を聞いたことがありますか?酸蝕症とは名前の通り、酸で歯が溶かされてしまう病気です。
生活習慣や食生活の変化によって、酸蝕症で悩む方が増えています。酸蝕症は歯周病・虫歯に次いで第三のお口の疾患となり、日本人の4人に1人が罹患していると言われています。
日本人に多い「酸蝕症」とはどんな病気なのか、治療法と一緒にご紹介します。
酸蝕症とは
酸蝕症とは酸によって歯が溶かされる病気です。
歯の表面はエナメル質という固い組織に覆われています。エナメル質は人体の中でも最も固い組織で、歯を外部や食品の刺激・食べ物を噛む咬合圧から守る役割を担っています。
しかし、酸度の高い食品や液体に長時間歯が晒されることで、エナメル質は化学反応を起こし破壊されてしまいます。
エナメル質の内側には、象牙質という組織があります。象牙質はエナメル質よりもずっと柔らかい組織なので、エナメル質が破壊された後に酸に触れ続けるとどんどん溶かされてしまいます。
象牙質が咬合圧や摩擦ですり減ることも
それだけではなく、むき出しになった象牙質は食物を噛んだ時の咬合圧や摩擦で削られ擦り減ってしまいます。
酸蝕症によって歯の破壊が進むと知覚過敏のような症状が出たり、歯が欠けたり擦り減ってしまうこともあります。
酸蝕症は、虫歯のリスクを高めるとも言われています。
酸度の高い食品・飲み物
酸性、アルカリ性の度合いを表す指標としてPH(ペーハー)と呼ばれるものがあります。
PH7が中性で真ん中の直です。PH7よりも値が大きいとアルカリ性、値が小さいと酸性になります。
酸度の高い食品・飲み物ほど歯を溶かす力が強く、PHの値が小さいほど歯を溶かす力が強いといえます。
注:酸度の高い食品・飲み物も摂取の仕方を工夫したり摂取した後のお口のメインテナンスを適切に行っていただければ酸蝕症を防ぐことができます
PH6以上
わかめ、ひじき、こんにゃく、野菜(玉ねぎほうれん草など)肉、魚、水、無糖の麦茶や緑茶・煎茶・烏龍茶、牛乳
pH5.5 (歯が溶け始める)
紅茶
PH5~4(中度のリスク)
とうもろこし、じゃがいも、にんじん、キャベツ、ビール
PH4~3(中度~高度のリスク)
パイナップル、りんご、いちご、食酢、米、スポーツ飲料水、果汁ジュース、乳酸菌飲料、野菜ジュース
PH3以下(高度のリスク)
胃酸、レモン、コーラ、梅干し、ワイン、酎ハイ
酸蝕症の原因になる習慣
酸蝕症は酸度の高い食品・飲み物を高頻度に摂取することに加え、酸に歯がより多く晒される摂取の仕方や生活習慣がリスクを高めると言われています。
酸蝕症の原因となる習慣をご紹介します。
- 長時間かけてのダラダラ食べやチビチビ飲み
- 食後すぐに歯を磨かない
- 寝る直前の酸度の高い飲食物の摂取
- 無理なダイエット、過食嘔吐
- 逆流性食道炎
- 食酢の習慣的摂取
- 運動時スポーツ飲料水を長時間かけて摂取する習慣
長時間にわたり酸度の高い食品・飲み物に歯が晒され続けることが、酸蝕症のリスクを格段に引き上げます。
また、寝る直前に酸性の飲食物を摂取すると寝ている間に歯が溶かされてしまいます。
酸度の高い食品を摂取した後は、必ずお水などで口を濯ぐか歯を磨くようにしましょう。
逆流性食道炎や過食嘔吐について
胃酸はPH1~1.5とPHが最も低い強酸の1つで、歯を溶かす力も強いです。
過食症による過食嘔吐の習慣・逆流性食道炎などの疾患は、酸蝕症の原因になります。歯がボロボロになる前に、これらの疾患をしっかりと治療する必要があります。
また、スポーツ飲料水も酸性度の高い食品の1つです。摂取した後は歯を磨くか水で口をゆすぐようにしましょう。
酸蝕症の症状
酸蝕症の進行レベルごとの症状と治療法をご紹介します。
進行レベル低度
歯の表面のエナメル質の一部が脱灰した状態です。
この段階では見た目からは、酸蝕症の進行がほとんど分かりません。
極端に冷たいものを飲んだり食べたりした際、歯がしみる程度の症状が出ることがあります。
治療法)フッ素による再石灰化促進
溶けてしまった表面のエナメル質にフッ素を塗ることで、フッ素が歯に浸透して歯の構造を修復しながら歯を強化してくれます。(これを再石灰化といいます。)
初期の酸蝕症の場合、フッ素による再石灰化で歯は充分回復します。
また、唾液には酸を中和して歯を溶かす力を弱める効果があります。唾液の分泌を施すマッサージや習慣を取り入れることも効果的です。
進行レベル中度
エナメル質の破壊が進んだ状態です。歯が一部分くぼんでしまったり欠けてしまうことがあります。また、象牙質の色が透けて見えることで、歯が黄ばんでみえることもあります。
治療法)欠けた歯の修復・知覚過敏治療
酸蝕症が進行するとエナメル質が多く破壊され、フッ素による再石灰化だけでは修復が追いつかなくなってしまいます。
冷たい物や温かい物がしみるなどの知覚過敏の症状が強く出始めたり、歯が欠けてしまうこともあります。
欠けた歯は被せ物や詰め物治療により、修復します。知覚過敏の症状が強い場合には、歯の神経の処置を行うこともあります。
修復処置としてはダイレクトボンディング、ラミネートベニア、セラミック治療、その他保険治療が適応になります。欠けた部位や大きさ、ご希望によって治療法を選択します。
進行レベル高度
エナメル質が完全に破壊され象牙質が露出した状態です。
この段階になると象牙質の黄色い部分が露出していたり、歯が欠けたり割れてしまっていることがよくあります。
知覚過敏の症状も進行し、何もしなくてもズキズキと痛んだりひどい場合には神経が死んでしまっていることもあります。
治療法)歯に被せ物を被せる修復処置
前歯はラミネートベニアやセラミック治療で審美・機能的な回復を目指します。(保険治療では前装冠と呼ばれる裏打ちが金属の被せ物で修復します。)
奥歯はセラミック治療か、保険治療の場合には銀色の詰め物または被せ物で修復します。
補綴的な治療に加え、必要に応じて神経の治療を行う場合もあります。
酸蝕症が中度以上進行して修復処置が必要な歯の治療にはセラミック治療がおすすめです。
当院で扱うセラミックは審美的に優れるだけでなく経年劣化の少ない強度の高い材質です。
酸蝕症によって欠けたり短くなってしまった歯を天然歯のように自然に修復し長く綺麗な状態でお使いいただけます。
酸蝕症でお悩みの方はぜひ一度ご相談下さい。